今日のこと

従伯母が亡くなり会いにいってきた。傍系の親族で血縁ではないけど、なんだか身近に感じるひとだった。なのに、もう1年以上もご無沙汰してた。その後悔で胸がつぶれそうになりながらひたすら車を走らせた。赤信号で止まるたび空を見上げた。
幹線道路から折れずっとずっと上り路。ローカル線の踏切まで来たら渡らずに線路脇の細い道へ入る。線路と並行して田畑の中、やがて線路は高架となり道は急カーブでその下をくぐるとさらに細く狭く曲がりくねって、離合のためのスペースはところどころにしか無い。見えるのは山間の細い川、数段の段々畑、まばらに斜面に張り付くように立つ家々。細い道が無くなる寸前の集落にある、その一つへ向かって急な坂道を登った。
縁側の、ガラス戸の向こうにレオン(犬・13歳)がいた。小さく「わっ、わっ」と声を立てこちらを見た、そのとてつもなく寂しげな顔はとうとう私の胸をつぶし肺から気管から口から鼻から血を吹き出させて息を止めた。そんな気がした。
「忌中」が重く垂れる玄関戸が開き、再従兄弟が招き入れてくれた。ガタイの良い元消防職員が3割方ちいさく見えた。
対面を勧めてもらえたので従伯母の傍らへ。手をつき涙ながらにご無沙汰を詫びた。拝顔。控えめでとてもやさしくて丸顔にちいさくて可愛らしい笑みをまた、控えめに浮かべていた生前の従伯母と、眠っている従伯母には僅かに違いがあった。口元。目元やさしく穏やかだけど、端正に引き締まり凛とした口元。決意とか覚悟とか悟りとか、やさしさの中にあった強さや潔さ。それを見ているうちに、自分の気管からふっと息が漏れて急に呼吸が楽になった。
そっか、おばちゃん、またいつか会えるんだね。自然と決意とか覚悟とか出来て泰然自若、そうなった時に、きっと。
でも今は会えないことが寂しい。
帰り際、レオンが鼻を寄せてきた。普通の、茶色い雑種犬。年をとって顔が少し白くなった。鼻筋に触れてそっと撫でると目を閉じて、お互いの感情が同じだとでも言うように短く鼻を鳴らした。
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